「理念」
スポーツは本来、楽しいものだ。バレーボールとビーチバレーもまさにそうだ。選手が胸 を躍らせて試合をする。練習に生き生きと励む。少年・少女は練習と試合を通じて技術を 高め、チームメートとの絆を深め、フェアプレーの精神を学び、成長する。青少年もその ようにして、心身のバランスのとれた大人になる。
ひたむきに競技に励む選手は周囲に共感を呼び、学校やコミュニティーに笑顔の輪を広げる。スポーツ文化はそのようにして、はぐくまれる。バレーボールとビーチバレーは明るく創造的な環境で親しまれるべきだ。卑屈で陰湿な暴力行為やセクシュアルハラスメント(セクハラ)は、自由で伸びやかな自己表現であるスポーツと対極に位置するものであり、 バレーボールとビーチバレーに入り込む余地があってはならない。
指導者と選手はバレーボールとビーチバレーを愛する者として、自らその品位を保ち、互いに尊重し合わなければならない。各人がこのことを十分に理解することが、暴力行為やセクハラなど倫理に反する行為を防止する上で、最も重要である。社会全体が暴力とセクハラの根絶に取り組む中、バレーボールとビーチバレーの指導においても、こうした動きと同調する努力が求められている。
「目的」
1.このガイドラインは本協会に登録する全てのメンバーがバレーボールとビーチバレーを指導するに当たって、暴力行為やセクハラなど、倫理に反する行為を行うことを防止し、それらの行為により被害を受けることを防ぐことを目的とする。
2.このガイドラインは、バレーボールとビーチバレーの指導(コーチング)を制限することを意図したものではない。むしろこのガイドラインの理念と目的が正しく理解されることにより、適切でより効果的な指導が行われることを目指している。
「倫理規程」 公益財団法人日本バレーボール協会はこのガイドラインを規定する「倫理規程」を以下の通り定めている。違反が認められた場合には、登録抹消を含む処分が下される。
第3条 本会関係者は、法令、定款、社会通念、条理及び本会の定めた規程や決定事項を順守する。常にスポーツマン、スポーツ関係者として、品位と名誉を重んじつつ、フェアプレーの精神に基づいて他の範となるよう行動し、バレーボールの健全な普及・発展に努めなければならない。
2 本会関係者が次に掲げる行為を行うことを禁止する。
(1)指導に名を借りた暴力行為、いじめ、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、差別、暴言等、その他人権尊重の精神に反する言動
(第2号以下省略)
第5条 本規程への違反行為に対する処分は、以下のとおりとする。
(第1及び第2号省略)
(3)本会に登録した個人または団体 登録抹消、競技会への出場停止、戒告その他必要に応じた処分
(第2項以下省略)
暴力行為をなくすために
1.このガイドラインにおける暴力行為とは、肉体的暴力により相手を傷つけることのほか、侮辱などの言動により相手を精神的に傷つけることをいう。
2.指導者は選手の人格を尊重するとともに、以下のことを十分に理解・認識しなければならない。
(1)指導者は選手、チームに規律を植え付ける意図であろうと、その他いかなる意図であろうと、暴力行為をしてはならない。指導者には常に自身を律する意思の強さが求められる
(2)暴力行為には肉体的な暴力だけでなく、暴言・脅迫・威圧・侮辱などにより相手を精神的に傷つけることも含まれる。相手の人格を否定するような言動、相手の存在を無視する ような態度は精神的な暴力である
(3)選手が自分の意に沿わない言動をとったとき、指導者が暴力行為に頼っても、なんら問題の解決にはならない
(4)技術指導やチームの運営などについて、選手と意見の相違が生じた場合、指導者は選手と話し合い、必要に応じて第三者の意見を聴き、相互理解に努めることが重要である
(5)言動に対する受け止め方は個人差があり、男性と女性で異なる場合もある。さらに立場の違いなどで変わることがあり、さまざまだ。親しみを表すつもりの言動であっても、指導者が意図せずに結果として選手を傷つけてしまう場合がある
(6)暴力行為を受けた者は、指導者やチームメートらとの人間関係を考え、それを拒否する明確な意思表示ができないことも少なくない。指導者はそれを同意・合意と勘違いしては ならない。特に指導者と選手との間では、選手側が明確な意思表示をしにくい構造にある
セクハラをなくすために
1.このガイドラインにおけるセクハラとは、相手を不快にさせる性的な言動により、バレーボールとビーチバレーに携わる環境や、日常生活を送る環境を悪化させることをいう。
2.指導者はセクハラを行うことがないよう、選手に対しては互いの立場の違いを超えて、その人格を尊重し、以下のことを十分に理解・認識しなければならない。
(1)セクハラに当たるか否かは、自らの判断によって決まるものではなく、相手が不快に感じるか否かが基準となる
(2)言動に対する受け止め方は個人差があり、男性と女性で異なる場合もある。さらに立場の違いなどで変わることがあり、さまざまだ。親しみを表すつもりの言動であっても、指導者が意図せずに結果として選手を不快にさせてしまう場合がある
(3)「この程度のことは相手も許容するだろう」とか「相手とは良好な人間関係、信頼関係 があるから大丈夫だろう」といった勝手な思い込みをしてはならない
(4)技術指導や体調管理などの目的で選手の身体に触れるときは、選手本人の了解を得るとともに、できる限り着衣の上から触れ、また第三者の同席を求めるなどして、誤解を与えることがないよう配慮する
(5)相手が拒否し、または嫌がっていることが分かった場合には、同じ言動を繰り返してはならない
(6)セクハラを受けた者は、指導者やチームメートらとの人間関係を考えて拒否することができないなど、明確な意思表示ができないことが少なくない。しかし、指導者はそれを合意・同意と勘違いしてはならない。指導者と選手との間では、拒否の意思表示をすれば、その後指導を受けられなくなるのではないか、あるいは競技を続けられなくなるのではないかといった不安から、選手が明確な意思表示をしにくい構造にある
(7)セクハラに対する選手の抗議などの対応を理由に、その後の指導のあり方や大会への出場選手選考などで、選手に不利益を与えるような扱いはしてはならない
(8)セクハラは、男性が被害者となる場合もある。また、指導者と選手の間だけでなく、先輩と後輩の間、あるいは同期の選手の間、さらに同性の間でも起こり得る。性的な事柄に 関する冷やかしやからかいは、いじめの問題であると同時にセクハラの問題でもある
(9)練習・試合中のセクハラに注意するだけでは不十分で、例えば試合後や合宿での飲食の機会などでのセクハラにも十分に注意する
3.セクハラを受けた者は、その被害を深刻なものにしたくないと考え、一人で我慢する場合がみられる。しかし、それだけでは問題は解決しないことを理解し、以下の行動を とるよう努めることが望まれる
(1)セクハラに対しては、勇気を持って毅然とした態度をとり、明確に拒絶の意思表示をする
(2)同僚や友人など身近な信頼できる人に相談する
(3)所属団体や日本バレーボール協会への相談も検討する
4.セクハラの事実を知った者は、見て見ぬふりをするのではなく、行為者に対し、やめるよう忠告するなど勇気を持って具体的な行動に出ることが望まれる。周囲の者の沈黙 は、セクハラの被害をより深刻なものにする。関係者全員がこのことを正しく理解しな ければならない。
社会の良きシンボルとなるために
役員、指導者、選手をはじめバレーボールとビーチバレーの関係者は、暴力とセクハラ防止に努めるほか、常に以下のことを意識し、バレーボールとビーチバレーが青少年の夢と希望であり続け、また競技に携わる者が社会の良きシンボルとして信頼されるよう、務めなければならない。
(1)常に品位を保ち、公共の場における態度や言動、服装に注意する
(2)人種、国籍、性別、障害の有無などの違いを理由にする、いかなる差別も容認してはならない。平等の精神を持ち、他者の人格を尊重する
(3)他者のプライバシーを尊重する。例えば競技場内外での盗撮行為は、他者のプライバシー侵害だけでなく、セクハラにも該当するものであり、厳に禁じられる
(4)フェアプレーの精神を重んじ、ドーピングに断固として反対する。また登録や大会への参加申込みなどでの虚偽申請といった不正行為は絶対に行わない
(5)法律や条例などの法規範を遵守し、違法行為をしない。大麻などの薬物使用や性犯罪行為は絶対に容認しない
(2012年3月22日制定)